最高裁判所第三小法廷 平成3年(行ツ)223号 判決 1992年2月04日
上告人
中地平
被上告人
船橋公共職業安定所長立野利吉
右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行コ)第六六号労働保険支給停止処分取消請求事件について、同裁判所が平成三年八月七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論中の違憲をいう部分は、要するに、原審の右判断の不当を抽象的に主張するものにすぎない。論旨は、いずれも採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎)
(平成三年(行ツ)第二二三号 上告人中地平)
上告人の上告理由
一 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな憲法の解釈の誤りがある。
すなわち、第一審千葉地方裁判所平成二年(行ウ)第一五号事件について、同裁判所が平成三年三月二〇日言い渡した上告人の訴え却下判決及びこれを支持した原審東京高等裁判所控訴事件の判決は、左記の点より到底受け入れることはできない。
被上告人が昭和六二年七月一六日上告人に対し、雇用保険法第三四条一項に規定する「虚偽の申告をして失業給付の支給を受けようとしたもの」に該当するとして、同年五月二六日以降の失業給付の支給停止処分を行った行為は、その必要不可欠な事実認定、事実確認を行わず、被上告人の一方的な推定に基づいて判断したものである。
上告人の反論、事実立証を経ないで一方的な推定に基づいてのみ下した裁定は、明らかに国民に保障する基本的人権を無視したというべく、憲法第一一条に違反する。
そして、右違反行為は、それが公務員により惹起されたものであり、上告人は右行為により精神的な苦痛を被ったから、被上告人は公務員の不法行為として損害賠償責任を負うべき性質のものである。(憲法第一七条)
第一審千葉地方裁判所民事第一部のなした判決は、本件公務員の不法行為の実態を故意に無視し、ただ形式的基準のみにより上告人の訴えを門前払いしたもので、これは憲法の解釈を誤っているといわなければならない。
この判決を支持した控訴審の判決もまた憲法違反のそしりを免れない。
二 原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。
すなわち、第一審千葉地方裁判所の判決は、事実及び理由の第三「争点に対する判断」中において、雇用保険法第三四条、第三五条、第六一条関係聴取書を上告人は受け取った、その書面には上告人が署名押印している、と判断しているが、右書面は被上告人において勝手に偽造、作成したものであり、上告人がその旨当該法廷において陳述したに拘らず、これも全く無視したものである。
およそ、公文書の成立について争いが存するときは、鑑定すべきが相当と思料されるところ、それを上告人に対し示唆することを怠ったことは裁判の公正を欠くといわなければならない。
裁判官の恣意的判断であってはならない。
被上告人の不当な処分により、上告人の被った精神的苦痛、損害は計り知れないものがある。
法令に反してなした第一審判決を支持する原審判決も、また、同じ誤りを侵しているといわなければならない。
以上